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 いくら需要が無いだろうからって、序の幕以後、一ヶ月も放置されていたパラレル小説・胡蝶語りを漸く更新!
 第一章は子ども時代のお話になる予定。そしておそらく、一番流血表現が多いのも第一章なので苦手な方は御注意を。

 かなり特異なお話しなので、カテゴリー『・モノ怪パラレル小説:胡蝶語りについて』をお読みの上、大丈夫!という方はお進み下さい。

 続きから、胡蝶語り 第一章 双汝之歌~一の幕~










 一日目。
 みっともなく、情けないほど。
 ただただ嬰児のように、泣きじゃくった。
 
~一の幕~
 
 生き別れた兄弟が出会ったのは、新月の晩。貴族の持ち物である事が容易にうかがえる寝殿造りの屋敷でのこと。その屋敷は彼らの父親のものであり、兄である少年が暮らしている場所でもあった。
 
 兄弟が再会できたのは、生まれて間も無く余所に出されていた弟が、闇に紛れて人知れず、自分の生まれた家を訪ねて来たことがきっかけだった。
 
 一人の少年が入り込んだ先は、長いこと人の手が入っていないと、幼子でも一目で分かるほど荒れ果てた庭。広い屋敷とは何とも不似合いなその様は、闇の中であるだけに一層不気味であったが、其処に立つ少年の顔からは恐怖や恐れといった感情は窺えなかった。
いや、正確にいえば、何を考えているのか分からぬ程、その面に浮かぶのは正に無表情といえるものであった。ただし、その身に纏った空気はキンと張り詰め、少年の周りだけ風が止まっているようにさえ感じられる。
 
だが、そこに風を送り込んだ“もの”があった。
ふわりと、頭上から闇が降って来たのだ。

  少年は突如、己の視界を奪ったものに驚き、それに手を伸ばす。
顔を覆ったものは、月明かりの無い今夜の空に似た色の一枚の衣。手に伝わる温もりから、それはつい先程まで、持ち主の下にいたものだと知れた。しかし何故そんな衣が空から降ってくるのかと、視線を上げた。
 その時。
 
「そんな格好でうろつくと、莫迦でなくとも風邪を引きますよ」
 
 不意に聴こえてきた声に、ビクリと少年の身体が強張る。
 と、同時に、眼の端にちらりと捉えられた白。反射的にその先を追うと、まず、空を透かし込んだような蒼が意識の内に飛び込んできた。
そらを眼に飼う子どもが一人、此方を見下ろしている。
 
少年は、目を見開いた。
自分と同じ年頃と思われる子どもが、こんな刻限に木の上にいる事にではなく、闇の中だというのにはっきりと見えたその眼の色にでも、ましてやその齢に似合わぬ口調にでもなく。
どこかで見た覚えのある、その、姿に。
 
少年は自分でも意識しないまま、衝動的に何か言おうと口を開いたが、妙に渇いた咽喉からはヒュッと擦れた音しか出せない。
そんな様子を知ってか知らずか、蒼の持ち主は白い衣の裾をヒラリと翻し、猫のように軽やかに少年の目の前に降りてきた。木の上から降り立った少年は、未だ呆然としている少年の方へと、しかと向き合うかたちで背筋を伸ばし、やはりどこか独特な響きのある話し方で言葉を続ける。
 
「はじめまして、というのも可笑しいですが…
会いたかった、ですよ」
 
―『会いたかった』?
 その言葉はさらに驚きと混乱をもたらし、少年の目が更に大きくなる。
 
 すると一瞬だけ、どこか感情の読み難かった碧眼を携えた顔が、ふっと淡く微笑んだ。それは見惚れるほど甘やかで、なによりも穏やかな優しさに満ち。
月の光が無い闇の中とはいえ、すぐ目の前にいた少年にはもちろん、その一瞬の表情もはっきりと見ることができた。
じわりと身体の奥深く、なにか言葉では言い表せられぬものが沁みこんでいく感覚に、何故か思いきり声を上げて啼きたくなった少年は俯き、ぎゅぅと己の手を握り締めた。手に持ったままだった黒染めの衣に皺が寄る。
 その衣から微かに感じる温もりのせいで、余計に泣きたくなっていたというのに。
 
「我が弟君」
 
 本当に、本当に優しく、まるで大事な宝物かのように言われた言葉に。夜風にすっかり冷えた―けれど確かに温かな、そぉう、と頭を撫でる柔らかな手に。
 
返事をかえせる、訳がなかった。
 
双汝之歌
 
どうして 
どうして 
もっとはやく あいに いかなかったのか
 

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